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林羅山『狐媚鈔』「施桂芳」より |
女の園 |
中国、成都の何達と施桂芳の二人が、一緒に洛陽へ旅した。 郊外を歩き回って、一つの古寺に至った。寺の向かいには、鬱蒼と木々が茂った林があった。 寺の僧に、 「あの林は、何というところか」 と尋ねると、僧は教えた。 「あれこそ劉太守の花園です。太守が死んで年久しいので、家は荒れ崩れ、林と雑草ばかり残っています」 二人が林の中へ入っていくと、荒廃した庭に狐が通った跡が幾つもあって、二人とも、しみじみとものの哀れを感じた。 何達は、さっきの寺に忘れ物をしたのに気づき、取りに帰った。 桂芳は独りとどまって、竹林の中を歩み行くと、突然、二人の女が現れた。 「太守のご命令により、桂芳さまをお迎えにあがりました」 「太守とは、だれのことだ」 「おいでになれば分かります。さあ、こちらへ」 女たちについていくと、大きな家の朱門に至り、入ると一人の男が殿上に座して、桂芳を見て言った。 「予は長くここに住まいするが、老人になった今、訪ね来る客人はまれだ。君が来てくれて、とても嬉しい。君を予の愛娘の婿にしよう」 桂芳は驚いて辞退した。しかし大勢の女に引き立てられて閨房に連れ込まれた挙句、美人と性交していい気持ちになった。 何達が戻ってみたら、桂芳がいない。もしや虎にでも食われたかと心配するところへ、林の奥から人が騒がしく語る声が聞こえてきた。 茨を掻き分けて声のするほうへ行くと、大勢の女が、一人の男を石の上に置いて、散々なぶりものにしていた。 コラッ! と叱ると、女はみな消えうせ、男だけが残った。酔いつぶれたように動かないのを引き起こしてみれば、桂芳だった。 桂芳は、何達に背負われて宿へ戻り、臭い汚い涎を数升吐いて、病に臥した。 数ヵ月後にやっと本復した。 |
あやしい古典文学 No.1032 |
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