井出道貞『信濃奇勝録』巻五「一目髑髏」より

一目髑髏

 須坂の普願寺の近くに、ひとつの塚がある。
 塚の上に欅の朽ちた株があって、その下を掘ったところ、奇怪な髑髏が一個出てきた。
 ふつう両眼に相当するところは、窪んではいるが穴ではなく、窪みの中央に針で突いたような小孔がある。それとは別に、額に丸い穴が一つあり、こちらが眼窩にちがいなかった。
 尖った骨が頭蓋のあちこちに生えていて、まるで栄螺(さざえ)の殻のようだった。
 人夫たちが、怪物の骨だと恐れて打ち砕こうとするのを、寺の僧が止めた。
「これは鬼の頭にちがいない。寺宝にしよう」
 髑髏は箱に収まり、庫に秘蔵されて、たやすく人が見ることはできなかったが、筆者は文化十二年五月、須坂あたりに旅した際、同地の田中氏のもとで、ひそかに見せてもらった。
 なるほど、とりわけ上顎骨のあたりに尖りが群立して、きわめて怪しいものだった。もし、こんなものが生きて出てきたら、どんな災いを為すかしれないと思われた。

 一つ目の鬼といえば、『出雲風土記』に、こんな記事がある。
「昔ある農夫が、大原郡阿用(あよ)郷で山田を耕していた。そこへ目一つの鬼が来て、農夫を食った。農夫は食われながら、『アヨ、アヨ』と声をあげた。これによって『阿欲』と地名がつき、神亀三年に字を『阿用』と改めた」と。
あやしい古典文学 No.1033