森春樹『蓬生談』巻之五「手足なき人形の如き物を産みたる女ある事」より

人形を産んだ女

 肥後の名医 村井琴山の嫡男の冠吾は、療治において父にまさるといわれる。筆者とは旧知の間柄である彼が、かつて、こんな話をした。
「ある女が、胸部および腹部に癪(しゃく)のような塊があって久しく煩ったすえ、臍の上に腫れ物ができて、やがて破れて一物が出た。
 一物の形は、小児が弄ぶ裸の土人形の手のないものに似ていた。眉・目鼻は形のみで、ただ口だけ大きく開いて、歯も生えていた。長い黒髪も生じていたが、それでも、まったく生き物ではなかった。
 人形のようなものが出た箇所は長く癒えず、女はそこから糞を漏らした。自分が治療して、すこしよくなった。」と。

 筆者が思うに、中国の『虞初新志』に、孝子趙希乾が自分の胸を裂いて心臓を出した傷痕から糞が出たと記されている。よく似た話だ。
あやしい古典文学 No.1035