浅井了意『新語園』巻之九「蛇子来霊座 太平御覧・幽明録」より

長くて太い弔問者

 中国の会稽郡に、謝祖という人がいた。
 謝祖の妻は最初に男子を一人産み、続いて長さ二尺ばかりの蛇を一匹産んだ。
 蛇はただちに門外に棄てられた。しばらくして見ると、どこへ去ったのか姿がなかった。

 数十年ののち、謝祖の妻は老いて死んだ。
 そのとき謝祖は、はるか西北の方角から風雨の轟きが迫るのを聞いた。と、たちまち、長さ数十丈の凄まじい大蛇が門前に到達した。
 大蛇は玄関を入って祭壇に昇り、棺に三重に巻きついた。頭をかかげて棺を叩き、両眼から血の涙を流した。
 これは言うまでもなく、妻がむかし産んだ蛇が年を経て長大となり、母の死を知って急ぎ来て、血涙をしぼって哀悼したのだ。
 大蛇は久しく泣いていたが、やがて何処へともなく去っていった。
あやしい古典文学 No.1037