『西播怪談実記』巻二「六九谷村の猫物謂し事」より

何してる?

 播磨国揖東郡六九谷村の三木何某という農家は、家産が豊かで、代々庄官をつとめる家柄である。
 祖先は馬術の奥義をきわめて世に知られ、今も名作の鞍などが伝わるという。また、豊臣秀吉が姫路城在城のころは、鷹狩りの行き帰りに必ず休憩に立ち寄ったとのことだ。

 宝永年間のこと、三木家にいた誓古という尼が、用があって寝間の襖を開けようとしたとき、後ろから、
「誓古、何してるの?」
と声をかけられた。
 振り返ると、そこにいたのは久しく可愛がっている飼い猫だった。
 誓古は女ながらも気丈な性質だったから、少しも驚かずにその場は済まして、密かに主人に告げ知らせた。
 主人は、『ものを言うような猫は、後のち人に害をなすにちがいない。どうしたものか』と思案したが、人が直接手を下しては死後の怨念が恐ろしいので、罠を仕掛けておいた。
 ものを言うほど劫を経た猫でも、しょせんは畜生の浅ましさ、たちまち罠にかかって死んだそうだ。

 これは、同村の者が筆者の近所に来て確かな話として語ったことを、書き記したものである。
あやしい古典文学 No.1051