下津寿泉『怪妖故事談』巻之二「蝦蟇二犯サル事」より

びっくり病

 中国、汾州の王氏が奇病にかかった。
 右の脇腹が蛙のような声を発して、「手でここを揉め」と命ずるのだった。言うとおりにしないと、「揉め、揉まぬか」と騒いで止まない。大勢の医者が診察したが、何の病気ということさえ分からなかった。

 その後、晋陽の趙巒(ちょうらん)という隠者が名医だと聞き及び、呼んで診させると、趙は言った。
「これは驚気が臓腑に入って消えないまま、病となって声を発しているのです」
 王氏には思い当たることがあった。
「あるとき水辺を歩いていると、足元からいきなり、大きな蛙が五六尺も躍り上がって、一声鳴いた。わしは驚いてキャッと叫び、その拍子に右の脇腹が引きつって痛んだ。あれからだよ、蛙みたいな声がするようになったのは」
 趙が王氏の脈を診ると、右の関脈が伏結していた。これすなわち癪の病である。
 六神丹を用いると、蛙の皮膚の色に似た青い涎を垂れ流し、病は癒えた。
あやしい古典文学 No.1055