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『南路志』巻三十六より |
豊永郷の怪獣 |
寛保二年六月、土佐国の豊永郷下ノ土居村に怪獣が出た。 頭は牛のようで、頭囲二メートル半もあろうかという大きなものだ。首から上は毛が赤く、角はなかった。首から下は黒毛で、胴回りは六メートルくらい。背が丸まって、手は短く、足は長い。人のように立って歩くこともできる。 怪獣は村の小川に来て、深いところで水を浴びては、河原へ上がって休んだ。終日それを繰り返した。力も強いらしく、いとも容易に岩を起こしたりした。 村の者は恐れて、三百メートルばかり離れたところから見ていたが、一日そこに居て、次の日には隣村へ去った。 隣村でまた一日居て、また他村へ行き、しだいしだいに遠くへ行って、ついに行方が分からなくなった。 一説に、これは鼈(すっぽん)の仲間で、勝賀瀬山にもときどき出るそうだ。日照りが続くと出て、川辺で過ごすものらしい。 |
あやしい古典文学 No.1071 |
座敷浪人の壺蔵 | あやしい古典の壺 |