鈴木桃野『反古のうらがき』巻之一「幽霊」より

幽霊を見る女

 筆者の友人 斎藤朴園が、妻に先立たれて、後妻をむかえた。その女も、最近連れ合いを亡くした者であった。
 後妻は人柄もふるまいも申し分なくて、朴園も『これでいい』と安堵していたところ、ある日突然、
「わたくしを離縁してくださいませ」
と必死の面持ちで願い出た。
 どうにも引き止められず、望みどおり実家へ帰したが、後に聞けば、
「夕方、庭から家に入ったら、前の夫が座敷にいた」
などと、里から付いてきた女中に話したことがあったらしい。

 女はその後、再びどこかへ嫁に行き、今度は井戸に飛び込んで死んだそうだ。狂気に駆られたものに間違いない。
 朴園は早いうちに離縁したので、災いに直面しないですんでよかったと、皆は語り合った。
あやしい古典文学 No.1077