菊岡沾凉『諸国里人談』巻之三「狸火」より

狸火

 摂津国川辺郡東多田村の鰻畷(うなぎなわて)に、燐火が出る。
 燐火は人の形をしており、牛を牽き、提灯を携えて歩いていることさえある。その正体を知らぬ人が行き会って、提灯の火を借りて煙草を吸い、しばらく語り合ったが、まったく尋常の人のようだったという。
 かつて人に害を及ぼしたことはない。多くの場合雨夜に出る。土地の者は狸火だと言っている。
あやしい古典文学 No.1103