天野信景『塩尻』巻ノ六十三より

二面八足獣

 壬寅の年の五月十五日、蝦夷で驚くべき大地震が起こった。
 大山二つが崩壊し、山中から見たこともない異獣が数多く駆け出してきたなかに、二面八足の怪獣があった。蝦夷人が捕まえようと追ったが、怪獣は風のごとく飛び走って、ついに行方を見失った。

 これは、仙台の人の文に見える話である。
あやしい古典文学 No.1109