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大郷信斎『道聴塗説』第七編「行衛不知人」より |
行方不明 |
高輪の但州屋に、かつて二三度来た客で、まだ何処の誰ともはっきりとは分からない人が、先日またふと来て、 「今夕は深川へ行くので、船を用意してくれ」 と依頼した。 但州屋の主人は店の者に申し付け、いつもの河岸に居合わせた深川船に乗せて出してやった。 その後、船は深川の妓楼の桟橋に繋ぎ捨ててあり、船中には脇差と雪駄ばかりが残って、客は船頭ともども行方が知れない。 また、この春、増上寺弁天の開帳のときに、黒門の番所へ、一人の侍が便所を借りに来た。 侍は大小などを置いて便所へ入り、それっきり出てこなかった。 |
あやしい古典文学 No.1122 |
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