本島知辰『月堂見聞集』巻之二十九より

雲中の小猫

 享保十九年六月六日、夜半ごろより南東の風が吹き荒れ、雨も激しく降った。
 雨雲の中に小猫のごときものがいて、全身に炎を発し、けたたましく鳴きながら北東方向へ飛行した。
 風雨が家々を打つ音ばかりでなく、炎の小猫が衝突して建物が破損する音も甚だしかった。

 この嵐により、七日、祇園祭は山鉾を包んで巡行した。賀茂川が洪水で、神輿も三条へ迂回した。
 火の玉が飛んだともいわれ、じっさいに見た者があちこちにいる。四条河原では、茶屋の小屋掛けを片付けていた二人が死んだ。
 丹波路では、それほど出水はなかった。桂川や膳所川沿いでは、大風が家屋を壊し、木々を倒した。
 東海道は、大井川が三日間の川止め。そのほかは別状なかった。
あやしい古典文学 No.1123