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| 中川延良『楽郊紀聞』巻十より |
メジロを掴み食い |
| 対馬豊村の竹林院の住職は、メジロを飼っていた。 あるとき蛇がメジロに目をつけて、付け狙うようになったので、夜は大きな箱に鳥籠を入れて、襲われないように気をつけた。 そんなある日、竹林院の近所の男が、海岸で、蛇が蛸に変身するのを目撃した。 この男は蛸が大好物だったので、蛇が化した蛸であることを知りながら、かまわず獲って帰り、晩飯に食べた。 それから寺へ行き、住職に、メジロを見せてくれるように頼んだ。住職は、 「夜のメジロには、見るべきところがない。明日の朝早く来るがよい」 と言ったが、「是非とも」とせがんでやまないので、しかたなく籠を取り出して見せてやった。 男は、見るやいなや籠を破り壊し、メジロを掴んで、むしゃむしゃ食ってしまった。 住職はただ事でないと思って、すぐに人を呼んで見たことを語り、男を家まで連れ帰らせた。 家で一晩寝て、翌朝になると、男の様子は尋常に復した。そして、自分のしたことを聞いて大いに驚いた。 「昨夜蛸を食べたまでは覚えがあります。その後のことは少しも分かりません」 人々は、 「メジロに執心していた蛇が、蛸に化したのに違いない。恐ろしいものだ」 と言い合ったという。 蛇が蛸に変身することは、この竹林院の話に語られているが、これはだいぶ古い出来事のようだ。 最近のことでは、幼少の時に一度、その後にもう一度、いずれも海ばたで実際に見たという人がある。 初めて見た時は、蛇が尾を潮に浸けて動かなかった。死んでいるみたいだったが、潮に浸かった部分が次第に平たくなっていったので、さては蛸に化けるところかと思った。 ほかの子供と泳いだりしてひとしきり遊び、一時間ばかり過ぎてまた見ると、蛇はおらず、かわりに、尾を浸けていた辺りに蛸がいた。この蛸は動きが鈍く、泳ぐこともままならない様子だった。蛸の周囲の海水は金色にぬめり、油がこごったみたいにどろどろで、潮も動かなかった。 仲間の子供のなかには、 「もう蛸になったのか」 などと言って、手で掴んだりする者もあったが、そんなことをされても、普通の蛸のように蠢くことはなかった。 二度目に見た時も、前と同じく尾の方を潮に浸し、半身が平たくなって、少しも動かなかった。やはり死んだ蛇のように見えた。この時は、その後どうなったか見届けなかったそうだ。 |
| あやしい古典文学 No.1132 |
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