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村純清『奇事談』「山中異人」より |
鼠色の乙女 |
小森源左衛門は、かつて越中新庄鉛山の奉行であった。 飛騨との国境の長戸という所は、新庄から行程十里ばかり、大木と茅草に覆われた険阻な細道を、ようやく見分け辿って着く村である。 小森は、その長戸あたりの山見分のおり、人家から遠く隔たった山中で、あやしいものを見た。 人の形の者が、大樹の枝上にあった。髪は炎のごとく赤く乱れ、全身鼠色だが、乙女の姿に似たものがすっくと立って、悠然と四方を眺めていた。 案内の者に尋ねると、 「時々見かけることがあります。世にいう山姥かなにかではないでしょうか。」 とのことだった。 長戸は寒気がきわめて堪え難いところで、人の飼う猫や鶏なども冬を凌ぎかねて死ぬし、唐辛子を植えると味が甘くなってしまうほどだ。 しかし飛騨との国境なので、人家を絶えさせるわけにはいかず、二十軒ばかりの家が今もある。五穀は育たず、人々は鉛の採掘によって暮らしを立てる。 昔から、この地では鉛を採ってきた。しかし今は昔と違い、以前に多く産出した跡をあさるように採るという、心細い産業と成り果てている。 |
あやしい古典文学 No.1136 |
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