『古今著聞集』巻第十七「伊勢国書生庄の法師上洛の帰途天狗に逢ふ事」より

旅は道連れ

 仁治年間のこと、伊勢国の書生庄の田舎法師が京へ上って、五条坊門富小路に宿をとった。
 やがて役目を終えて、伊勢へ帰ろうと出発したとき、同じ書生庄で顔見知りの山寺法師にばったり出会った。
 どこへ行くのかと聞かれて、郷里へ帰ると答えると、山寺法師は、
「わしもだよ。では一緒に行こう」
と言った。
 それで、同道して帰るのだと思っていたら、道が違って、思いがけず法勝寺や法成寺などへ行った。田舎法師は自分の意志がなくなって、まるで鬼に掴み取られたようだった。

 さらに行って、今度は七条高倉へ着いた。
「あちこち歩いて、喉が渇いたな。おまえの差している刀を売って、酒を買え。わしと酒を飲んで、咽喉を潤すがよい」
 こう言われると、我にもなく刀を売り払い、酒を買ってしまった。
 酒を二人で飲み、また行って、新日吉神宮のあたりに来たとき、見知らぬ三人の山伏に出会った。
 山伏たちを見て、山寺法師は恐れおののいた様子で、その場に立ちすくんだ。それを睨みつけて、三人のうちの首領とおぼしき者が咎めた。
「おい、何をしている。つまらぬ悪さはよせ」
 山寺法師は、いよいよ恐れ入った。どうなることかと見ていると、三人はそれ以上なにも言わず、通り過ぎていった。
「あの人々は誰ですか。物を言った人の名はなんというのですか」
と尋ねたが、山寺法師は、
「あれは、たてる坊というのだ」
と答えただけで、また行って、着いたところは清水寺だった。

 山寺法師は、天狗であった。
 田舎法師を鐘楼の上に連れ込み、なんとしたことか蔓できりきり縛って、屋根の檜皮(ひわだ)と裏板の間に括り付けると、天狗は失せ去った。
 刀を差しているうちは、ここまで思うがままにできなかったが、刀を売らせて後、存分に酷いことをしたのである。
 鐘楼に登ってきた鐘突きの者が、呻き声を聞いて寺僧に知らせ、大勢が裏板をこじ開けた。
 なんとか生きて助け出された田舎法師は、わが身に起こったことを人々に語ったのだった。
あやしい古典文学 No.1138