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山崎美成『提醒紀談』巻五「熱水魚を生ず」より |
熱湯魚 |
雲仙の温泉は、山の上にある。沸々と湧き上がって溢れ流れる熱湯の勢いは、容易に近寄りがたいものだ。 人に聞いた話だが、罪人をこの熱湯の中に投げ込むと、しばしの間に肉骨が糜爛して消え去り、ただ毛髪だけが泉面に浮かび出るそうだ。 そんな猛烈な熱泉なのに、汀の浅瀬には、小魚が棲息して泳ぎ回っている。なんと不思議なことではないか。 ちなみに、その辺りのあちこちに地面が盛り上がったところがある。それを掘り崩してみると、みな硫黄の塊である。 伊豆の熱海の温泉は、日毎きまった時刻に、海中から沸騰して噴き上がる。 夏の雷鳴のさなかでも、これが沸き立つときは鳴り止む。湯気が起こって高く昇りゆくおりは、晴天もにわかに曇る。 これほどの比類ない熱湯にもかかわらず、それの降り注ぐところに、蚯蚓のような形の虫が棲むという。じつに奇異なことだ。 中国の『神異経』には、「南荒の外、火山あり。昼夜火燃え、その中に鼠あり。」との記事がある。 熱湯の魚、火中の鼠、意外性において同類の話といえよう。 |
あやしい古典文学 No.1142 |
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