長山盛晃『耳の垢』巻二十六より

毎年爆笑してしまう

 筆者が幼年のころのことだが、那珂氏、清水氏、伊藤氏の三人が垣根の傍らに生えていた見慣れぬ茸を取って、酒の肴に焼いて食った。
 しばらくして、清水氏と伊藤氏は急な激しい腹痛に襲われた。
 伊藤氏のほうは、大いに吐いて後に気分がよくなった。いっぽう清水氏は苦しみ甚だしく、人々が医者だ鍼師だと騒ぐ中で狂乱の様相を呈したが、奇応丸を大量に飲ませたところ、たちまち一物を吐き出した。
 一物は小さな鞠のようなもので、これを吐いて後はやや落ち着き、翌日夕方にかけてだんだんと恢復して、ついには全快した。
 吐いた鞠のようなものを破ってみたら、食べた茸がそのまま出てきたという。

 一人だけ腹痛をもよおさなかった那珂氏は、翌朝になってから、
「なんだか腹が気持ち悪い」
などと言いはじめ、ほどなく笑い出して止まらなくなった。
 当初は周囲の人もなんとも思わなかったが、しだいに笑いが常軌を逸し、しまいには腹筋がよじれるように笑い狂うのを見て、例の茸のことを思い出した。
「さては、笑い茸という毒茸だったにちがいない」
 ただちに医者を呼んで薬を与え、ほかにさまざまな手当ても施して、その日の夜遅くには徐々に笑いが止まったが、そのあと重い病気になって、三十日ほどしてからやっと本復した。
 以来、毎年その時節になるたびに爆発的な笑いが起こり、持病となって一生の間ついに癒えずに終わった。
あやしい古典文学 No.1149