佐藤成裕『中陵漫録』巻之二「鬢髪生ず」より

イガグリ療法

 某家の娘は、齢十六にして、頭髪がはなはだ少なかった。生えてはくるものの、櫛ですくと抜けてしまう。医者は「血症」と診断して治療したが、まったく効果なかった。
 私は彼女を診察して、イガグリでその頭を刺して頭じゅうから血を流し、血をぬぐったあとで薬を塗付した。これを七日ほど続けたら、いっせいに毛髪が生え始めた。

 彼女の病気は、頭が鬱熱して血が腐ることから起こるものだ。だから毎日クリのイガで血を取って熱気を排出すれば、必ず平常に復する。ただしこの療法は、三十歳以上の人には効果がない。
 薬は、鼬・蝮・イガグリの三種を焼いたもので、清油で練ってつける。この薬がみな、新たに生ずる毛髪の根となる。
 今後も、同じ症状が出れば、この療法を繰り返せばよい。ただひとつ、鼬を手に入れるのが難しいという問題点はある。
あやしい古典文学 No.1155