『斉諧俗談』巻之五「野槌蛇」より

野槌蛇

 『和漢三才図会』には、深山の岩穴の中に「野槌蛇」というものが棲む、とある。

 野槌蛇の形は、槌(つち)の柄のないのに似ている。すなわち頭と尾が同形の円筒状で、大きなものは体長一メートル近くあり、太さは直径十センチ近い。
 大和国吉野郡の山中、菜摘川の晴明滝のあたりで、時々見かけられる。口はたいそう大きく、人の脚に噛みつく。
 坂を走り下るときは、もの凄く速く人を追うが、登るのは苦手で、たいそうのろい。だから、もし野槌蛇に遭ったら、急いで高い方へ逃げるとよい。そうすれば、けっして追いつかれることはない。
あやしい古典文学 No.1163