古賀侗庵『今斉諧』続志「死人揺手」より

亡骸を負って

 摂州三田の某が、同じ摂津の灘で暮らしていた姉が病死したため、灘へ赴き、亡骸を持ち帰って葬ろうと、背に負って帰路についた。
 途中、険しい六甲山を越えなければならない。鬱蒼とした樹木に覆われ、怪事が多いと噂される山道である。すでに闇の夜となって、風がひょうひょうと木々を揺らすばかり。
 と、背中の死人が、手で某を目隠しした。それを何度か繰り返した。あるいは、手を懐に入れてきた。その冷たさは、骨まで凍るようだった。
 某は肝の据わった男で、少しもたじろがなかった。死人に物が憑いて怪を為すことがあるのを知っていたので、大声でこう言った。
「おまえらは暇ですることがないから、そんな悪ふざけをするんだろう。だが、おれは大変な苦労をしている。山越え川越え、遠い道を歩いてきて、もう身も心もへとへとだ。馬鹿もたいがいにしてくれ」

 これより後、死人はおとなしくなって、ついに三田まで帰りつくことができた。
あやしい古典文学 No.1175