『天明紀聞寛政紀聞』より

古かぶと

 天明二年六月二十日、下町辺で道具を扱って世を渡る何屋何某が、ある道具屋で古い兜(かぶと)を買い受けた。
 荷物で手が塞がっていたため、兜は頭にかぶって店を出て、飯田町を通ったとき、背後から不意打ちで一太刀、頭に斬りつけられた。
 某は驚き慌て、さいわい近くに出入りの屋敷があったので、そこへ逃げ込んだ。

 屋敷から人を付けてもらって、家路についたところ、途中の道に一人の侍が、抜身の刀を持ったまま倒れて死んでいた。
 この侍、いったい何がしたかったのだろう。
あやしい古典文学 No.1181