森春樹『蓬生譚』巻之一「山茶樹の葉より鼠を生る事」より

山茶鼠

 筑前秋月の侍が、山中で奇妙なものを見た。

 路傍の山茶(ツバキ)の枝に、葉が丸まって下がって、風も吹かないのにしきりに揺れた。
 何だろうと思って立ち止まって見ていると、丸まった葉はついに千切れて地面に落ちた。
 葉を開いてみたら、その中に小さい鼠がいた。
 鼠は、さして騒ぎ暴れることもなかったので、持ち帰って箱に入れて飼ったところ、よく馴れた。
 その鼠は、体がいくぶん短くて丸かったが、ほかは普通の鼠と異ならなかった。
あやしい古典文学 No.1183