森春樹『蓬生談』巻之九「大鼈霊と成りて人に報ぜし事」より

すっぽん幽霊

 豊後府内藩の若侍が、坊ヶ小路のあたりで、体長五尺ばかりの大スッポンを釣り上げた。
 砂上に仰向けにして、近くの墓地からたくさん拾い集めた花立の竹筒に火をかけて焼き殺し、そのまま肉を裂いて食った。

 翌年、若侍は江戸勤番になった。
 宿直の夜、風雨の激しい夜半過ぎに、詰所で大きな音がして、あっ! と叫ぶ声が聞こえたので、別間にいた朋輩が燭をともして行ってみると、若侍が血を吐いて、うつ伏せに倒れていた。
 急いで助け起こしたが、すでに息絶えていて蘇生しなかった。
 何があったのか、辺りを照らし見るに、畳の上の所々に泥があり、その形は大きな亀類の足跡らしかった。玄関のほうへ向かう足跡を辿って行ったが、それは式台までありありと見えて、外の地面には続いていなかった。
あやしい古典文学 No.1185