『奇異怪談抄』上之上「韓朋」より

連理樹

 中国の戦国時代、宋国の臣に韓朋(かんほう)という者がいた。
 宋王は、韓朋の妻がたいそう美人なのを知り、奪って我がものとした。そのうえ、『韓朋が大いに恨んでいる』と聞くと、これを捕らえて獄に繋いだ。
 韓朋は悲憤のあまり、ついに自害した。

 韓朋の妻は、密かに自分の衣のあちこちに綻びをつくり、王に従って高楼に登ったとき、隙をみて楼上から身を投げた。人々が衣を掴んで引き上げようとしたが、衣が千切れて、そのまま下に落ちて死んだ。
 彼女の帯には、
「わたしの屍を、韓朋と同じところに埋めてください」
と書き付けてあった。

 王は激しく怒って、別に穴を掘って死骸を埋めた。夫婦の二つの墳墓は、互いに向かい合う形であった。
 ほどなく、梓の木がそれぞれの墓の上に生え育った。その根は地下で交わり、枝は地上で連なって、いわゆる「連理樹」となった。
 また、つがいの鴛鴦(おしどり)がその木に飛来して、朝から暮れまで常に悲しげに啼いた。世の人は、
「あの鳥は、韓朋夫妻の魂魄が化したものだ」
と言い合った。

 この話は、『捜神記』に書かれている。
あやしい古典文学 No.1188