林羅山『狐媚鈔』「徐安」より

怪しい少年団

 中国の下邳(かひ)という所に、徐安という漁師がいた。その妻は王氏といって、たいへんな美人だった。
 唐の開元五年の秋、徐安は海州へ向かった。
 王氏が独り留守を守っているところへ、なにやら姿かたちの怪しい少年が来て、つくづくと見つめた。
「あなたのような美しい人が、独り暮らしで虚しく月日を送るとは、じつに惜しいことだ」
 言われて王氏は喜んだ。やがて少年と親しく交わり、たびたび行き来するようになった。

 徐安が海州から帰ると、王氏に対面したが、夫婦の仲とは思えないよそよそしさだった。除安は、どうしたのかと訝しんだ。
 日が暮れかかるといつも、王氏は身を装って部屋に閉じこもった。そして、夜十時ごろにはいなくなり、暁に戻っている。何処をどう出入りするのか、まったく分からなかった。
 ある夕刻、徐安が密かに部屋を覗くと、王氏は古い籠に乗って窓から出て行くのだった。暁には、また籠に乗って帰ってきた。
 大いに驚き怪しんで、その翌夜、王氏を別室に押し込め、徐安が女のように化粧し、女の衣を着て、袖の中には短剣を隠し、古い籠に乗って待った。
 夜十時ごろ、怪しい気配が来て、籠を導いた。籠は窓から出て空を飛び、どこかの山の一所に至った。
 そこには豪華な帷幕が張り巡らされ、その内に溢れんばかりに酒肴が盛られた宴席があった。
 三人の少年が座に就いていて、まだ籠から降りないうちから、口々に、
「王氏、早く来い」
と呼び立てた。
 徐安はすぐさま短剣をふるって、三人を刺殺した。そしてまた籠に乗ったが、もはや籠は飛行しなかった。
 夜が明けて、殺した三人を見ると、三匹の狐の姿に化していた。それで得心して、徐安は徒歩で家へ帰った。
 その夕刻、王氏が身を装い飾ることはなかった。
あやしい古典文学 No.1189