林羅山『狐媚鈔』「薛■」より

犬に乗る狐

 中国、唐の貞元年間の末、永寧竜興観という所の北方に住む男があった。
 そのあたりには妖狐が多かった。夜になると、狐は人を恐れることなく、我が物顔で歩き回った。
 男の家の西隣に、李大尉という有力者が住んでいて、鷹と犬を数多く飼っていた。男はその人に頼み込んで、特に強そうな犬三頭を借り、我が家に連れ帰った。

 夜になって三頭の犬を庭に放したところ、狐が三匹やって来て、それぞれ犬にまたがって乗り、庭の内をあっちへこっちへと走らせた。
 明け方まで乗り回して犬が疲れると、少し休ませたが、また乗って、犬に乗りながらの蹴鞠に興じた。犬がとうとう動けなくなると、狐は鞭をふるって犬を打った。
 男は「こりゃ駄目だ」と諦めて、ほかの土地へ引っ越した。
あやしい古典文学 No.1190