浅井了意『新語園』巻之五「張衝駭神ヲ画ク 太平広記」より

人面豚身

 中国の後漢の時代、南陽の西鄂というところ出身の、張衝という人がいた。
 張衝は、聡明で弁舌さわやか、画才にめぐまれ、書の達人でもあった。侍中府の官職に任じられ、河間王に仕えた。

 建州の満城県の山上には、「駭神」という名の神がいた。体はまるっきり豚で、頭だけ人であった。
 その姿がみっともないというので、周辺の山の神は、さんざん物笑いの種にした。それが辛くて、駭神は山を下り、ひとり水辺で遊ぶようになった。

 張衝は、駭神のいる川へ行って、彼の形状を写そうと試みた。
 しかし、筆を手にすると、神は水に潜って身を隠してしまう。紙筆をしまうと、ほっとしたように水から出てくる。
 そこで、張衝は腕を組んで突っ立ったまま、密かに足指でもって写生した。

 絵を描いた場所は今、巴獣潭という、深い淵になっている。
あやしい古典文学 No.1191