古賀侗庵『今斉諧』補遺「巨魚呑人」より

巨鮎

 近江の琵琶湖で、ある日、体長十メートルに近い巨大な鮎が死んで、水面に浮かんだ。
 鮎の腹を割くと、一体の男の屍が出てきた。皮膚も肉もすでに溶け爛れ、筋と骨が露呈していたが、着衣は原形をとどめ、懐から三百塊もの円金が見つかった。

 鮎は男を呑んだものの、おそらくは金気の極冷に臓腑を侵されて、絶命したのだろう。
 いっぽう男は、多額の金を所持しながら、一日の享楽も得られずに、魚介の餌となった。薄命の極みである。
あやしい古典文学 No.1197