古賀侗庵『今斉諧』巻之二「巨蛇」より

巨蛇

 肥前の深濠村の山に、一匹の蛇がいた。
 もともと大きめの蛇で、鼠や兎を捕らえて食っていたが、しだいに長大さが増し、狐や狸を呑むようになった。
 動物の悲鳴を聞いた村人たちが、様子を見に行くと、大蛇にきりきりと巻き締められて、全く身動きできなくなっているのだった。

 大蛇は毎朝、東を向いて頭をもたげ、朝日の気を吸った。
 村人はその姿を空恐ろしく思い、大蛇を追い出そうと相談して、徐々に山を焼き払った。
 ある夕刻、山のほうを望むと、火炎のようなものが飛び出して遠方の山へ向かった。
 以後、再び大蛇を見ることはなかった。
あやしい古典文学 No.1198