古賀侗庵『今斉諧』巻之三「鼠怪」より

鼠怪

 会津の高橋伴右衛門の家では、人が死に失せるにあたって、必ず鼠の怪がある。
 ある日、伴右衛門の弟の右門が、座敷に座って人と話していると、突然、着物の袖から鼠が出た。アッと驚いたときには、すでに鼠の姿はなかった。
 翌日、右門は朋輩との槍の稽古ちゅう、相手の槍が突き刺さって死んだ。

 また、右門の下の弟の七郎は、重い皮膚疾患で臥していたが、その敷布団の下から、急に鼠が飛び出し、たちまち何処へ行ったのか見えなくなった。襖も障子もぴったり閉ざされ、鼠が出入りできる隙間などまるでなかったのになぜだろうと、家人は怪しんだ。
 その日の夕刻、七郎は死んだ。
あやしい古典文学 No.1211