古賀侗庵『今斉諧』補遺「狼子不可養」より

狼の子

 信州松本の山中で、某家の主人が狼の子を養い育てた。猫の子を愛するように可愛がったので、狼の子もまた、猫のごとく懐いた。
 それゆえ、成獣となっても、主人は何の心配もしていなかったが、ある日、狼はふと家を出て行った。
 そのとき主人は寝ていたが、異変を察し、竹炉に布団をかぶせて人が寝ているかのごとく見せかけ、自分は梁の上にのぼって下を見下ろした。

 まもなく、狼が大挙して押し寄せ、家に侵入した。
 主人が飼っていた狼が、真っ先に布団の寝姿の首元を齧り、引き裂いた。しかし、それは人でなかった。
 狼の群れは、失望して去った。
あやしい古典文学 No.1214