浅井了意『新語園』巻之八「張氏ガ妻狼母ト名ク 稽神録」より

狼母

 中国、晋州新神山県の張氏の妻が、あるとき奇妙な夢を見た。
 黄褐色の衣を着た、腰部の異様に細い男が忽然と現れて、姦淫して去った。
 夢から醒めたら妊娠していた。

 それ以来、好んで生肉を食らい、気性が荒く猛々しくなった。肉を食っても食っても食い足りないと憤懣し、常に唇を舐め、歯噛みして怒った。その性情は、月を重ねるにしたがって限りなくひどくなった。
 半年後、二匹の狼の仔を産んだ。仔狼は、産まれるやいなや活発に走り回った。夫の張氏は、ただちにそれを打ち殺した。

 産後の妻はただ恍惚として日を暮らし、年を越してから本復した。
 里人は、彼女を「狼母」と呼んだ。
あやしい古典文学 No.1221