『古今著聞集』巻第八「山僧慶澄注記の伯女、好色によりて死後黄水となり…」より

黄ばんだ水

 比叡山の慶澄という僧の長姉は、恋愛沙汰がたえず、好色ぶりがはなはだしかった。
 長く付き合っている男相手でも気が緩んでぞんざいになることはなく、何につけても愛情深く心を込めて振る舞ったので、この女に惹かれる者は多かった。
 女は、患って命を終わるとき、念仏を勧められたが唱えようとせず、枕もとの棹にかけたものを取ろうとする様子で手を伸ばしたまま、息絶えた。
 亡骸は、法性寺のあたりで土葬にされた。

 それから二十余年後の建長五年ごろ、改葬しようと墓を掘り返したところ、跡形が何一つなかった。さらに深く掘ったら、黄ばんで油のようにぎらぎらした水が湧きだして、汲めども汲めども尽きなかった。
 油水まじりの泥を五尺ほども掘った中にも、何もなかった。その底でやっと、鋤が棺ではないかと思われるものに当たったので、掘り出そうとしたが、どうしても掘り出せない。
 そのあたりに手を突っ込んで探ると、わずか一寸ばかりの割れ残った頭の骨が見つかった。
 好色な生き方は罪深いものだから、死後、こんな有様となったのである。
 同じときに改葬した女の母親は、ずっと昔に死んだのに、遺骸はちゃんと原形をとどめていたそうだ。
あやしい古典文学 No.1223