神墨梅雪『尾張霊異記』二篇下巻より

牢を覗く女

 五六年前のことと記憶している。

 丹羽郡小折村で不義密通事件があって、男のほうは吟味中に牢死した。
 女は名をゆきといい、獄門の刑に定まった。
 処刑の日、ゆきは刑場の土器野へ曳かれたが、同罪のはずの男の姿が見えないので、「あの人はどうしたのかしら? まだ牢にいるのでは……」と、そればかり気がかりだったのだろう。
 土器野で首を打たれたはずの時刻に、ゆきが牢屋に現れ、入牢の人々を覗いて回ったそうだ。

 そのとき牢中にあった者が語ったことである。
あやしい古典文学 No.1227