神墨梅雪『尾張霊異記』初篇下巻より

鼠と虱

 火事の跡などには、たくさん虱(シラミ)がわくものだ。聞くところによると、鼠の糞が焼けて虱になるからだそうだ。

 名古屋の御園町あたりに、嶋屋甚右衛門という人がいた。
 甚右衛門は長年、疥癬を患っていたが、鼠を食うと効能があると聞いて、実際に食ってみた。すると、疥癬がことごとく治ってきた。
 薬効ばかりでなく、焼鼠はことのほか美味だったので、その後も鼠を捕らえては焼いて食った。
 住み込みの弟子たちも焼鼠の味を覚えて、みんなしてウマイ、ウマイと食っていたところ、身辺に大量の虱が発生して、困ったことになった。
 それで、鼠を食うのはやめることにした。
あやしい古典文学 No.1228