栗原柳庵『柳庵随筆』巻之七「土中より魚を獲しこと」より

土中の魚

 文化十年ごろのこと。
 画家の板谷慶舟が、かつて拝領した植木鉢の土を取り出したら、中に少し動くものがあった。なんだろうと思って水で土を洗い流すと、それは鮒だった。
 拝領したときから数えておよそ三年近くも、魚が水を離れて土中に籠っていたとは、じつに不思議なことだ。

 兵学者の松宮俊仍は、『日新録』享保十年二月十九日に、
「増上寺の将軍家霊廟造営工事の時、十メートルばかり土を掘ったところで河豚(ふぐ)をつかまえた。奇異のこととして、とにもかくにも海に放したそうだ。」と記している。

 中国の『五行記』にも、土中に魚を得た話がある。
「唐の杭州富陽県韓G荘で、井戸を掘ったとき、土中にいた魚数千匹を獲った。その土は少し湿潤だった。云々」と。

 『上野志』によれば、利根郡沼田領硯田村の農夫喜右衛門は、自分の所有の荒地を開墾して田にしたとき、土中から泥魚(かじか)と泥鰌(どじょう)数匹を得た。
 おそらくそこは昔の池沼が草地となった場所で、土に古い魚卵が混じっており、自然の湿潤がそれを孵化せしめたのではあるまいか。
あやしい古典文学 No.1235