『片仮名本・因果物語』中「蛇人ニ遺恨ヲ成事 付犬猫ノ遺恨ノ事」より

遺恨

 上総国東士川の江南方村でのこと。
 左衛門四郎という者の舅が、畑で、羽をばたばたさせもがいている雉(きじ)を見つけた。取り上げてみると、蛇に巻きつかれていたのだった。
 これは儲けものだと、邪魔な蛇を引き外し、雉を持ち帰った。
 鳥汁にして人にもふるまおうと思い、隣人たちを呼んで、雉を入れた鍋を囲炉裏の吊鉤に掛けたとき、例の蛇が縄を伝わって下りてきた。
 隣人たちは皆逃げ去ったが、左衛門四郎の舅はあっさり蛇を打ち殺して、ゆうゆうと鳥汁を食った。
 その後、殺したはずの蛇がまた現れた。腹に巻きつき締めつけたので、鎌で切って棄てた。それでも繰り返し現れて、あくまで腹に巻きついた。
 しまいには蛇を汁に煮て食うなどして頑張ったが、だんだん疲れて、ついには巻き殺されてしまった。
「今も舅の墓には蛇が多く集まる」
と婿の左衛門四郎が語るのを、筆者はたしかに聞いた。

 三河国の足久志村でのこと。
 甚五郎という者の飼い猫が、子を三匹産んだ。
 子猫に着物をかけておいたところへ、母猫が来て、子を探す様子なので、
「おまえの子は三匹とも、この家の白犬が食ってしまった」
と冗談を言った。
 猫は厩の入口の糠俵の上にのぼって、じっとうずくまった。
 やがて犬が餌を食い始めると、背後に回ってヒョイと飛びかかり、犬の両眼を掻き抜いて逃げ去った。
 再び戻らなかったという。

 相模の戸塚の近くでのこと。
 ある男が、鷹の餌肉用に、犬を一分で売った。
 どのようにしたのか、犬は売った先から逃げて帰ってきた。その犬を、再び売った。
 またもや逃げ帰ったのを、三度目に売ろうとしたとき、犬は男の咽喉ぶえに飛びつき、咬み殺した。
あやしい古典文学 No.1236