津村淙庵『譚海』巻之一より

赤とんぼ

 上総国の海辺には、秋の末ごろ、赤くて丸い固まりが、南の方から潮に乗って、いくらでも流れ来る。
 岸に流れ寄ったのを見れば、みな赤とんぼが群れて固まったもので、陸に着くやいなや固まりがほどけ、散りぢりに北をさして飛び去る。

 どこから来るのか分からない。
 とにかく赤とんぼは、この国に生ずるものではないということだ。
あやしい古典文学 No.1241