『元禄世間咄風聞集』より

雪隠にこだわる

 本庄安芸守は綺麗好きで、雪隠の清潔さなどは、いちだんとこだわりがある。少しでも汚い雪隠には、けっして入らない。
 それゆえ旅の道中には、自前の雪隠を用意し、渋紙・畳なども持ち運ばせる。
 行水道具なども、いっさい揃えて持って行くらしい。

 小田切土佐守も汚い雪隠が嫌いで、道中、宿の雪隠には入らない。
 以前に大坂町奉行を務めた節には、江戸と大阪の往復とも、ずうっと雪隠に入らなかった。
 この殿様は、十五六日くらい用を足さなくても平気だ。江戸の自邸では、毎朝一度ずつ用を足すそうで、つまり、用便を我慢するもしないも自由自在の腹なのである。

 江守十太夫という人は、屋敷じゅうが寝静まった真夜中の一時・二時ごろ、ひそかに雪隠に入るらしい。
 雪隠の中にいるとき、何か少しの物音がすると、もう便が出なくなる。人の足音がしても、便が止まってしまう。
 たいそう微妙な腹の人のようだ。
あやしい古典文学 No.1245