『今昔物語集』巻第二十七「東三条の銅の精人の形と成りて掘り出さるる語」より

ひさげ男

 その昔、東三条院に式部卿の宮という人が住んでいた時のことだ。

 庭園の南の山を、五位官の装束を着た者が、時々歩き回った。身の丈三尺ほどの矮人で、よく肥った男だった。
 宮はそれを常々怪しく思っていたが、あまりたびたび見かけるので、名高い陰陽師を呼んで、祟りの有無などについて尋ねた。
 陰陽師は、
「これは物の怪であります。ただし人に害をなすものではありません」
と占った。
「どこにいる霊なのか。また、何の精なのか」
と尋ねると、
「銅器の精であります。この院の東南の隅の、土中におります」
と占った。
 その言葉に従って東南の隅まで行き、さらに占って場所を特定して、地面を二三尺掘ってみたが、何も出てこなかった。
「もっと掘るべきです。場所はここで間違いありません」
 陰陽師が言うので、さらに五六寸掘ったところ、五斗入りくらいの銅製の提(ひさげ)が出てきた。
 以来、怪しい五位が歩くことはなくなった。

 かつて酒や湯の入れ物として日々用いられた銅の提が、やがて打ち棄てられて長い年月を経た末に、人になって徘徊したのであろう。なんだか可哀想なことである。
 このことから人々は、「物の精は人になって現れることがある」と知ったのだった。
あやしい古典文学 No.1258