長山盛晃『耳の垢』巻三十七より

雪洞山人

 雪洞山人は秋田比内の生まれで、ひとたび江戸・京・大阪を漂泊して後、羽州に戻って近国を巡り歩いた。

 彼は、一人の子を背に負い、
「絵を描こう。絵はいらぬか。猫の絵を描こう」
とぶっきらぼうな大声でふれて行くのだった。
 山形辺りの人の話では、絵の精妙さに恐れて鼠が来ないとの定評があり、養蚕する家々はみな一枚ずつ買って、重宝したらしい。
あやしい古典文学 No.1259