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古賀侗庵『今斉諧』巻之一「雷震 二」より |
雷の遁走 |
かつて平戸侯邸に落雷したときのこと。 奥女中の一人に腹の据わった者があって、ただちに外へ飛び出し、手燭で辺りを照らし見た。 庭の一角で、黒雲のような塊がむくむく蠢いていた。 「おっ、あいつが雷だ」 手燭をかざして駆け寄ったところ、雷は灯影に驚いて逃げだした。 東西に逃げ惑うのをさかんに追い詰めたが、ついに見失ってしまった。 また、松山侯邸の中の某医師方に落雷して、家じゅうが大騒ぎしていたとき、一個の火の塊が鞠のごとく転がり、二階から梯子を伝って下りてきた。 それを雷火と知った家人は、急ぎ棕櫚箒の頭を焼いて、その箒で火塊を払った。 世間の言い伝えで『雷は棕櫚箒を恐れる』というが、じっさい雷は箒を避けて、また楼上へ引き返し、そのまま消え失せた。 |
あやしい古典文学 No.1262 |
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