浅井了意『新語園』巻之四「李文礼姉ヲ哭ス」より

姉の訃報

 中国、唐の李文礼は、十分な学識を備えていながら、たいそうぼんやりな性質の人であった。

 文礼が揚州の役人となって、行政に携わっていたときのことだ。
 同僚が都への出張から戻って、
「手紙をことづかってきた」
と言うので開いて見ると、『汝の姉は他界せり。日を選んで喪を発せよ』とあった。
 文礼は、
「おお、姉さんが死んでしまった。おお、なんてことだ」
と、大声で泣き叫んだ。周囲が何事かと問いかけても応えもせず、ただ泣きに泣くばかりだ。
 手にしている手紙を取って読んだ者が、
「これは、長官の姉上が亡くなった知らせだぞ」
と言うと、文礼はやっと我に返った。
「亡くなったのは、長官の姉上か」
「そうだよ」
「私に姉はないのに変だと思っていたら、はたして、他人の姉のことだったのだな」
あやしい古典文学 No.1265