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『榻鴫暁筆』第十「大樹仙人」より |
大樹仙人 |
はるかな昔、インドの某国に、一人の仙人があった。 ガンジス川のほとりに住み、座禅して悟りの境地に入ってから、すでに数万年を経ていた。姿形は枯木のようになり、肩の上で鳥たちが棲み暮らした。 座禅を解いて立ち歩くときには、鳥の巣が覆らないように、そっと動いた。人々はその徳を褒めて、「大樹仙人」と呼んだ。 あるとき、仙人が川岸の風景を横眼で見ると、国王の行幸とおぼしく、付き従う大勢の宮女が戯れ、笑いさざめいていた。 宮女たちのみずみずしい容貌、風になびくしなやかな髪、すべて世に比類なく美しかった。仙人はちらっと見ただけで愛欲の心を起こし、深く恋着して、とうとう都まで足を運んで王と対面した。 王は尋ねた。 「大仙人の精神は、物質界を超越した世界にあると聞きます。このたびはどうしてまた、世俗の都などへ軽々しく来られたのか」 仙人は応えた。 「我は林藪の間に座禅して長い歳月を過ごしてきたが、たまたま立ち上がって遊覧したとき、目のとろけるような宮女たちを見て、愛の心が生じた。それで、我が望みを述べるために、遠方から訪れたのだ」 これを聞いて王は、『仙人は通力があって、災いも幸いも意のままに為すものだ。いま望みを叶えなかったら激怒して、国土を破壊し、人民を滅ぼし、王の権威を辱めることだろう』と憂えた。 そこで、禍いを避けるべく、宮女全員に対し、 「仙人のもとへ行って、相手する気はないか」 と募ったが、申し出る者はなかった。 困ってしまった王のところへ、一人のまだ幼い娘がやって来た。 「わたしは賤しい身ですが、国を救うために、かの仙人のもとへ行こうと思います」 幼い娘は、仙人の住まいに至った。 しかし仙人は、この娘が大いに不満だった。 「我を老人とあなどって、色気もクソもない子供の女をよこしたな」 怒気を含んで呪文を唱えると、都の王城では、九十九人の王女の腰が、いっせいに曲がった。 これにより、その城は「曲女城」と呼ばれた。また、国自体その名で呼ばれたという。 |
あやしい古典文学 No.1268 |
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