椋梨一雪『古今犬著聞集』巻之十「死霊と戦ひ討れて死事」より

死霊と戦う

 岩城家家臣 阿弥陀寺隼人は、故あって、主命により討たれた。

 その後のある日、討手に向かった男が、松原の湯へ湯治に行こうと友人を誘った。
 野道を行き、途中に見えてきた墳墓を指して、
「あれは隼人の塚だ。あの者を討ったときには、かくかくしかじか……」
などと話しながら塚の傍らに至ったとき、男は突然馬から降り立ち、抜刀した。
「おまえは、存命の時でさえあえなく討たれたではないか。死霊となって迷い出たとて、どうして我にかなうものか」
 怒声を上げつつ、誰かと戦うように刀を振り回すので、友人が驚いて、
「気が狂ったのか。どうしたのだ」
とおしとどめるうち、ばったり倒れて気を失った。

 気付け薬を与えるなどして介抱すると、ようやく蘇生し、呆然として呟いた。
「たった今、この塚から隼人が現れて斬りかかってきた。是非なく戦ったが、背中を斬られた」
 肌脱ぎにしてみると、刀創のごとく袈裟がけに血が滲んでいた。
 その痛みが甚だしく、男はついには命を落としたという。
あやしい古典文学 No.1270