神墨梅雪『尾張霊異記』初篇下巻より

山犬焼殺

 寛政十一年の六月ごろのこと。
 入鹿村のある土民の家が、朝になっても起きてこなかった。
 近所の者が不審に思い、戸をこじ開けて中を見ると、家族七人全員が山犬に喰い殺されていた。土台下を掘って屋内に侵入したものらしい。

 『夜になったら、また死骸を喰いに来るにちがいない』と考えて、家の周囲に藁や柴を積み、土台下の穴はそのままにしておいた。
 思ったとおり、夜更けになると夥しい数の山犬が来て、かの七人の死骸を喰った。
 そのとき、村人たちは四方から火をかけた。八十頭ばかりの山犬が焼け死んだとのことだ。
あやしい古典文学 No.1276