長谷川忠祟『飛州志』巻之七より

消火獣

 飛騨国には、夜、山野を往来する人の松明あるいは提灯の火を消す獣がいる。その名をバンドリといい、人々はこれに遭遇することを甚だ恐れる。

 猟師が鉄砲で撃ち留めたバンドリを、筆者は見せてもらったことがある。その形状は、まことに稀有のものだった。
 頭は猫に似ていた。全身は、二尺四方の小さい布団を広げたようだった。背も腹も毛が生えた皮ばかりで、真ん中に手鞠ほどの肉があるのみだった。背の毛色は赤黄色く、腹は黄色がかった白だった。
 布団のような体の四隅に、それぞれごく短い脚があって、猫のそれと同様な爪が生えていた。尾は、真ん中に背と同色の長毛による筋模様があって、リスの尾に似たものだった。
 猟師の言うには、
「この獣は、常に木にまとい付いているので、見つけにくい。枝から枝へ移るのも、地面を走るのも、おそろしく疾い。空を飛行するときには全身が翼となり、荒々しい羽風を起こす。これの年経たものは、人にまとい付いて、覆い殺すことがある」と。
あやしい古典文学 No.1278