『古今著聞集』巻第二十「宰相中将の乳母が飼ひ猫の事」より

光る猫

 保延年間あたりの話だ。

 宰相中将であった人の乳母が、猫を飼っていた。
 その猫は、体高一尺、力が強くて綱を切ってしまうので、繋がずに放し飼いにしていた。
 猫が十歳をこえたころには、夜になると、背中が光を発しているのが見えた。

「おまえの死ぬ姿を、わたしに見せてはならぬ」
 乳母は、猫に向かっていつも言い聞かせていた。なぜそんなことを言ったのか、不可解なことである。
 その猫は、十七歳になった年、ふと行方知れずになった。
あやしい古典文学 No.1279