柳川亭『享和雑記』巻二「盲人被剥取事」より

悪い婆

 ある人が巣鴨の辺りを通ったとき、大勢の人だかりがあったので、何事かと立ち寄って覗き込んだ。
 人の輪の中に、真っ裸の盲人がいた。

 この盲人は先刻、そこらで一人の婆と道連れになったらしい。
 婆は、盲人の羽織にシラミが付いていると言って、取ってくれた。さらに「着物にもシラミがいっぱいじゃ」と言うので、盲人はなんだか体じゅう痒い気がしてたまらなくなり、シラミを取ってもらおうと、全部脱いで渡した。
 その衣類を持って、婆は逃げ去った。
「まんまと騙されて、残念でならない。だが、どうしようもない」
と、盲人は嘆くのだった。
あやしい古典文学 No.1285