『語園』上「未来の吉凶を示す事 事文」より

未来を示す書

 表叔という者が、不思議な人に逢って、大部の書物をもらった。
「何か事あれば、そのつど一幅を開いて見よ。必ずそうせよ」
と、その人は教えた。
 教えのとおりにするに、書の示すところに毛の先ほどの間違いもなかった。

 ある時、表叔は朝早く起きて、鏡に向かって髪を結っていた。
 すると何かが、鏡の面に落ちた。蛇のようなものだったが、四足があった。
 表叔ははなはだ驚き、そのまま病みついて、まもなく死んだ。

 かの書物は、未読の巻がまだ数幅残っていた。
 妻が開いて見ると、みな白紙で、一番奥の一幅に、鏡の面に蟠る蛇の絵が描かれてあった。
あやしい古典文学 No.1287